北米金継ぎ通信

北米金継ぎ通信 Vol.4

こんにちは。カナダで金継ぎと日本の伝統工芸を広めているShuichiです。トロントでは落葉が始まり、夜間は肌寒く感じる事もあり、やおら秋めいて来たのを感じます。 さて、先月はJapan Festivalに初出展しましたので、今回の北米金継ぎ通信ではその模様をお伝えしようと思います。Japan Festivalは、Mississauga(ミシサガ)市で行われる北米最大のお祭りで、コロナ前は10万人が訪れる規模でした。北米、特にアメリカにはカナダよりも多くの日本人が多く住んでいますが、MississaugaのJapan Festivalが北米最大なのだそうです。その理由は、ミシサガ市は刈谷市と姉妹都市関係にあり、デンソーをはじめとするカナダの日系企業のうち半分が集中しているため、日系コミュニティが小さな所に凝縮されているからのようです。Festivalのスポンサーも、デンソー、カワサキ、日通、キヤノン、スバル、富士フィルムなど大企業ばかりで、大きな予算でしっかりオーガナイズされているのを感じました。(来場者の方々も、「よくオーガナイズされていてクリーンなお祭りだ、流石Japaneseだね」と驚かれていたのが印象的です。日本でもお祭と言うとゴミが溢れるイメージがありますが、そういえばどこも綺麗だったように思います。)今年はコロナ後初、3年ぶりの開催となった事もあり、人出は例年を上回っていたそうです。 私は初めての出展となり、カナダで有田焼を広める活動をされている宮右衛門さんという会社のブースに間借りさせて頂きました。 今年のJapan Festivalでの私の目的は、下記の2つです。  1.金継ぎをひとりでも多くの方に知って頂くこと 2.生徒さんを獲得すること 1.は、こちらで活動を始めてからずっと行ってきた内容となります。オープン中はブースに人が絶えることなく集まり続け、一日中金継ぎの説明を行っていました。Anime Northでの反省点を活かして、最初に「これは元々全て壊れた器である」旨をお伝えし、割れた状態の写真を指差しながら説明したので、説明に使用する時間がかなり短縮出来たように思います。説明の後は、「サスティナビリティの体現だね」とか「壊れたものを直してより美しくするなんて素晴らしい」といった声が多く聞かれました。金継ぎに関しては殆ど英語で正しい情報が広まっていないにも関わらず、金継ぎの概念を知っていたり、更に漆で継いでいるという事を知っている方もいらっしゃいました。そこまで調べた彼らの情熱を有り難く思うと共に、より英語での発信力を強化していきたいとも思いました。更に、そういった方々は金継ぎを海を越えた遠くのものとして捉えていたので、「まさか、ようやくカナダに金継ぎ師が来てくれたの!これが本物の金継ぎ作品?見せてくれてありがとう!」と喜んで貰えたのもとても嬉しかったです。 2.に関しては、現在私のキャパシティを超えた依頼が来ていますので、アシスタントや将来的にKintsugicaを任せられる人の確保が急務となっています。金継ぎを習い始める人には、ひとまず体験してみたくて始められる方もいらっしゃいますし、一通り入門クラスを終えると満足してしまう方もいらっしゃいます。そのため、まずは極力多くの生徒さんを取って、日本文化に理解と尊重があるか、手先が器用か、継続して学び続ける意志があるかを観察していく必要があります。(基本的に北米では、日本での習い事のように何かを学び続けるという文化は余りありません。Craft/Art界隈は特に自己研鑽を積まないままで自信が先に身につくため、中途半端な技術で製作発表を行います。発表・売買の敷居が低いのは良い事ではありますが、金継ぎの場合は修復業でもあるため、未熟なままお客様の大切な器を取り扱うべきではありません。)たまに最初から「弟子になります」とお申し出頂く事もありますが、言葉から始まる意気込みよりまずは意欲と実績から見定めて行くようにしています。カナダはこれから夏が終わって、短い秋の後長い冬が来ることもあり、多くの人が冬の間に出来る事を探しています。お教室の案内は多くの人に手に取って貰えたので、今後の開講に合わせてどれだけの申し込みがあるか楽しみです。アシスタントになって頂けるまでに少なくとも毎週続けて1年半以上(妥協に妥協を重ねた条件ですが、実はカナダの人にはこれもほぼ不可能です…)はトレーニングが必要なので、やる気のあるいい生徒さんが入ってくれることを願っています。 さて、今回のイベントではとても嬉しいことがおきました。多くの人々が私に会いに来て下さったのです。まずは、ロックダウン中、遠方よりオンラインで学んで下さった生徒さん達。ずっとPCモニタに写った小さな映像を通して会話をしていたので、実際お会いした時の顔の位置(身長の高さ)にびっくりしました。2mを越えているんですね。そして、インスタグラムでフォローして下さっていた方々。パンデミック中は、インスタグラムのライブを付けっ放しにして作業風景を見せていました。そうする事で、金継ぎは決して一瞬で出来るものではない事を見せると共に、適宜金継ぎの歴史や素材に関する話をし、閲覧者さんからの質問にその場その場で答えていたのです。そのライブをずっと見て下さっていた方達が、生Shuichiとその金継ぎ作品を見に来て下さいました。更に、前月にAnime Northで私のブースに訪れてくれた方々。Anime Northは入場料が必要でしたが、こちらは誰でも入ることが出来るため、お友達やご家族を連れて戻って来てくれました。回数を重ねてイベントに出展する事の大切さを実感します。予想外だったのは、パンデミック前に出会った友人達。カナダに来て1年足らずでパンデミックが始まり、ここで英語を学んでいるうちに出会った友人達はほとんど母国に帰ってしまっていました。2年半、ほとんど友達もおらず、話す相手もいない中ひとりで我武者羅に頑張ってきましたが、そんな様子をSNSで見つつ、忘れずにブースに来て下さったのです。何が嬉しかったかというと、皆さんに「どこか面白いブースや美味しいものはあった?」と聞くと、口を揃えて「Shuichiの所に真っ先に来たんだよ! いつも頑張っているのを見ていたよ、やっと会えたね!」と仰ってくれた事ですね。コロナ禍の2年半、ひとりで苦しみながら行ってきた事が多くの人に肯定されたのを感じた瞬間でした。正に報われる思いです。 今回のFestivalで、金継ぎに興味を持つ人々や団体と出会えたので、夏のイベントシーズンを過ぎても金継ぎを広める活動はまだまだ加速しそうです。今後とも、温かく見守って頂けますようお願い申し上げます。 【ご支援のお願い】 私、Shuichiは、カナダを拠点として金継ぎと日本文化を広める活動を続けています。日本でもまだまだ金継ぎの認知度は低く、歴史や素材、工程などを伝える活動も行っております。付きましては、この場を借りてご賛同頂ける皆様よりご支援を頂ければと存じます。どうぞ宜しくお願い致します。 ♥寄付して応援 国内での啓蒙活動、国内における初の金継ぎ協会設立、全世界で金継ぎと日本の伝統工芸を広める資金とさせて頂きます。  Paypal: officeshuichiro@gmail.com 三菱東京UFJ銀行: 銀座通支店(024) 普通 0334238 コサカシュウイチロウ ♥紹介して応援 メディアや講演会、イベントで金継ぎや日本文化の海外展開に関するお話をします。(オンライン可。)是非ご紹介下さい。  Email: introjapanca@gmail.com ♥SNSフォロー/投稿をシェアして応援 Instagram: https://www.instagram.com/kintsugica/ Twitter: https://twitter.com/shuichi_ca Youtube: https://www.youtube.com/channel/UCAEQt-2lFfW_dzLXcR6ijJA <今回、【今月のお直し】はお休みします。>

北米金継ぎ通信 Vol.3

目次Anime North イベント展示報告 Anime North イベント展示報告7月15-17日の3日間、Anime North というイベントに出展して参りました。(イベント内容は前回の記事を御覧下さい。)初出展にも関わらず、運営側のご配慮で、通常の2倍のスペースを割り当てて下さいました。金継ぎへの期待の高さが伺えます。今回展示したものは、色々な方に寄付して頂いた壊れた器を金継ぎしたもの、一度お客様にお返しした依頼品をお借りしたもの、生徒さんの作品、金継ぎの特徴や素材、道具など。また、今までのお客様に依頼品のエピソードを送って頂き、写真と合わせてプロジェクターに投影しました。Beloved items(愛されている器たち)のナラティヴなアプローチを用いることで、金継ぎを知らない人にも最短で実感を持って貰える事を狙いました。 さて、開場してみるとひっきりなしに来場者が訪れます。ランチの時間も取れないほどの忙しさでしたが、多くの人に金継ぎの話を伝えられるという高揚感で、お手伝い下さった方たちと一緒にひたすら話し続けました。不特定多数の方に向けて金継ぎの情報を発信する機会がこれまでなかったので、話してゆく中でいい学びを得ました。その中のひとつ、金継ぎの認知度についてご紹介致します。まず、Kintsugiという言葉を認識している来場者は全体の1%以下でした。恐らく、全体で3人ほどだったかと思います。展示品に共通して存在している金色の部分に気付いてくれたのは、15%ほど。彼らの多くは、私が様々な陶磁器に金色でペイントを施していると思って見ています。そして、驚くことに、金色の部分にすら気付かず、ただの食器/骨董屋だと思っている人が75%ほど。一度話しかけ、これらは一度破損した器たちだと説明して金色の箇所を見せた時の反応はまた変わってきます。Kintsugiという言葉は知らないけれど何となくその概念は知っているいう人が40%ほど。いまいちピンと来ておらず、そういう技術もあるのだなという反応の人が60%ほど。つまり…Kintsugiという大看板を掲げて器を並べるだけでは、殆どの人に伝わらないという事でした。「修復のアート」「一度破損したものだと信じられますか」などの言葉をアイキャッチにすると、かなり最初の説明が省けたように思います。よく考えれば当たり前だったかもしれません。コロナ禍で少し世界的なな組織や企業で取り上げられたからと言って、言葉や概念はすぐ浸透するものではないのです。今までは、金継ぎ空白地帯で何とか私を見つけ出してくれた人達とのやりとりが主だっため余り気にしていなかったのですが、完全な異文化で何かを広める時、既に自分の中で出来上がっている概念をこれ以上無いほど因数分解し、違う文化(知識、認識の仕方、理解の仕方、求められているもの)に従って組み立て直す事は大変重要だと実感しましたまた、今回のイベントではワークショップも行いました。金継ぎはお直しの手法であり、アートであり、日常で使用できる実用品であり、持ち主と金継ぎ師にとってもセラピーであり、様々な深い哲学を内包したものでもあります。西洋でこのように様々な要素が絡み合ったものは余り馴染みがないため、時間を取って多角的に説明してゆく必要があります。そこで、綺麗な天然石への蒔絵体験で人を集め、その前にしっかり金継ぎ講義も行う事にしました。金継ぎにおいて、蒔絵は最後に継ぎ痕を金粉や銀粉で装飾してゆく過程になります。その技術を使って、天然石に思い思いの装飾をして貰うことにしました。 実際手を動かして伝統技術の深淵に触れるというのは大変好評でした。定員の30名はすぐ埋まりましたが、当日どうしても参加したいという方が10名お見えになり、予備の素材を使って何とか行われました。最初は緊張されていた皆さんも、徐々に良い質問を沢山投げかけて下さったり、デザインを見せ合ったりして楽しんで下さいました。また、同じワークショップを他の機会にも開いて欲しいというご依頼を頂いたので、今後も蒔絵を通した金継ぎ普及活動を続けて行こうと考えています。カナダで金継ぎと伝統工芸を広める活動を始めて2年半経ちました。誰に頼まれた訳でもなく、何の後ろ盾がある訳でもなく、コロナで友達も出来ず、日本からもカナダからも支援金などなく、寒くて慣れない環境で身銭を切ってひとりで耐え忍んできた2020年の春、夏、秋、冬、2021年の春、夏、秋、冬。今回ひとつの小さなイベントに出展しただけのように思われるかもしれませんが、これらを思うと感無量です。8月には、Japan Festivalでの展示もあります。今後、更に出展などで露出を増やして認知度を高め、企業とののコラボレーションなどに繋げて行ければと考えています。確かに誰にも頼まれていませんが、伝統工芸を未来に繋げるためには誰かが行わなければならない事です。銀座エヌを通して応援して下さっている皆様には感謝の念が絶えません。今後ともご厚誼ご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。 【ご支援のお願い】 私、Shuichiは、カナダを拠点として金継ぎと日本文化を広める活動を続けています。日本でもまだまだ金継ぎの認知度は低く、歴史や素材、工程などを伝える活動も行っております。付きましては、この場を借りてご賛同頂ける皆様よりご支援を頂ければと存じます。どうぞ宜しくお願い致します。 ♥寄付して応援 国内での啓蒙活動、国内における初の金継ぎ協会設立、全世界で金継ぎと日本の伝統工芸を広める資金とさせて頂きます。  Paypal: officeshuichiro@gmail.com 三菱東京UFJ銀行: 銀座通支店(024) 普通 0334238 コサカシュウイチロウ ♥紹介して応援 メディアや講演会、イベントで金継ぎや日本文化の海外展開に関するお話をします。(オンライン可。)是非ご紹介下さい。  Email: introjapanca@gmail.com ♥SNSフォロー/投稿をシェアして応援 Instagram: https://www.instagram.com/kintsugica/ Twitter: https://twitter.com/shuichi_ca Youtube: https://www.youtube.com/channel/UCAEQt-2lFfW_dzLXcR6ijJA <今回、【今月のお直し】はお休みします。>

北米金継ぎ通信 Vol.2

第一回目はこちら 目次あるもので何とかする隔絶されたロックダウン下で、金継ぎを知らない人達に金継ぎを売り込む【今月のお直し】 あるもので何とかする パンデミックの最中、金継ぎのお直しの受注とレッスンから始めることに決めました。こちらで金継ぎをするとは思ってもみなかったので、その頃辛うじて動いていた小型包装物郵便を使って、漆屋さんに材料と道具を送って頂きました。金継ぎを行うには、漆、金粉を始めとして、少なくとも30種類以上の素材と道具を必要とします。 更に、様々な形のお品の対応したり、蒔絵での表現方法のバリエーションを増やして行ったりするので、プロフェッショナルとしての金継ぎの道具の種類は軽く100を超えてゆくことになります。また、漆を扱うにはムロをしっかり作る必要も出てきます。ムロとは、漆が固まる湿度に内部が調整された箱ないし部屋の事を指します。漆風呂、漆室(ウルシムロ)と言うこともあり、漆を扱う職人には必須の設備です。漆を乾かすには湿度を必要とします。日本語としていまいちすっきりしない表現なのですが、要は漆が液体の状態から指で触っても付かない程に硬化する過程で、湿度を必要とするのです。一方、カナダは大変乾燥している国です。殊に室内は常に温度管理がされており、冬場はセントラルヒーティングのお陰で室内湿度は16%を切ることもあるほどです。漆の乾きは大変悪いですし、お肌も悲鳴を上げています。日本であれば、段ボール箱に濡れた布を入れて蓋をして簡易的なムロとすることを勧める金継ぎ師さんもいるようなのですが、カナダで同じ事をすれば一日で内部が干上がります。そのため、設備としてムロを整える必要があるのです。さて、ロックダウン下でどのお店も満足に開いておらず、必需品を売っているお店が時短で開いているだけでした。カナダにも百均のような立ち位置のDolleramaという店があり、ここで一通り揃えることにしました。4ドルほどの小さな靴棚を3ドルの布団袋に入れて立たせ、日本から持ってきたパナソニックのフェイススチーマーを入れました。忙しい人を美しい人に、のあのスチーマーです。私の美肌よりも金継ぎを優先させざるを得ない状況だったのです。スチーマーをコントロールするための、湿度センサーが付いた電源オンオフコントローラーは後の生徒さんが寄付して下さいました。これで、即席ムロ内の湿度は漆が乾くのに理想的な70〜85%に保たれることになりました。ムロ以外にも手に入らないものは多く、様々に奔走したのですが、それはまた機会があった時にお話させて頂きましょう。「完璧ではないかもしれないけれど、そこにあるものでなんとかする。」パンデミック下のカナダで金継ぎを始めるに当たって、自分は開拓者なのだと自覚するようになりました。 隔絶されたロックダウン下で、金継ぎを知らない人達に金継ぎを売り込む 集客にあたっては、幾つか考慮しなければならない点がありました。まず、Kintsugiは殆どの人に知られていません。金色の継ぎ跡がある器をメディアで見たことがある人も多少いますが、体感で20%程度。更にKintsugiの名前を知っている人は皆無に近い状態です。そのため、まずは分かりやすくインパクトのある言葉で、言葉を尽くして説明文を作成する必要がありました。これに関しては、パンデミック前にバレエのクラスで同じだった方が校正の経験があるということで、私の拙い英語を修正して下さいました。ありがたいことです。次に、北米では一般的に日本ほどものを大事にしない傾向があります。2018年の統計では、日本の一人あたりのごみ排出量は919g。対してカナダではその2倍の1972gです。日本人と比べて、長く使うことを考えずにものを買い、また大量に不要なものも買い込み、大切に慎重に扱わず、壊れたら直さず捨てる行動が強いと言えるでしょう。サスティナビリティという言葉をしきりに使うようになりましたが、行動が伴っているかというとまた別のように思えます。金継ぎについて説明しても、しばしば「何故器を修理する必要があるの?買えばいいのに」というリアクションを取られる事もあります。そのため、金継ぎを必要とするクライアントに至るまでは気の長い道のりになると覚悟を決めました。そして、「器の修理」よりも「復活のアート」として広告を作成することにしました。そしてやはり、パンデミック下であるということです。対面のイベントもなく、外を歩いている人もいません。フライヤーをお店に貼って貰ったり町中の掲示板に貼って回っても効果的とは言えません。ポスティングをすれば、アジア人が触った紙をポストに入れるなとも言われかねません。そのため、オンラインの無料情報掲示板を使うことにしました。日本で言うジモティーやメルカリのように、オンライン上で個人で売買出来るサイトが幾つかあります。更に、こちらのFacebookにもそのような機能が実装されているのです。ロックダウンによって自宅滞在が増えたため、ストレージやガレージの整理を始める人が多いであろう事は想像がつきました。(こちらのストレージやガレージは、容量が大きい分、様々なモノが詰め込まれているのです。)アンティーク、アート売買のカテゴリに、ひたすら「日本の伝統的技法、金継ぎで壊れた陶器をアートに昇華します」と投稿を続けました。同時に、ウェブページとインスタグラムも開設し、少しずつインターネット上に自分のサービスの情報を載せて行ったのです。やがて、ぽつり、ぽつりと問い合わせが来るようになりました。 <続く> 【今月のお直し】 先月ご紹介したお人形が組み上がりました。内側は麻布を貼られ、何度も漆を塗り重ねられてしっかり補強されています。割れた際に粉になってしまったパーツ、クライアントが探しきれなかったパーツは漆で作っています。ここまで綺麗に組み上がってくれて、あんなにバラバラな状態からよく頑張ったねとお人形に声を掛けてあげたくなります。 さて、ここからの工程は、ひたすら漆の面をスムーズにしてゆく作業となります。まずはペースト状の漆で大まかな凹みを埋め、砥ぐ事を繰り返したあと、粒子がより細かくより粘度のある塗り漆で、更に細かい凹みを埋めて砥いでゆきます。全ての面が完全スムーズになったら、金粉を蒔いて仕上げの段階となります。7月の第2週までには完成する予定なので、次回の金継ぎ通信では完成形をお見せ出来るかと思います。どうぞお楽しみに。 因みに、こちらは現在作業を進めている花瓶です。クライアントのご一家は代々イギリスで磁器の販売をされており、お祖母様の代にカナダに移民されたそうです。このお品はその家業で扱っていた花瓶。一家のルーツを示すもので、大切に受け継がれてきたものです。割れてしまってから5年以上、大事に破片を保存されていたそうです。カナダは移民の国です。それぞれの国から持ってきた大切なお品が壊れた時、破片を無碍に捨てられず、何年も何十年も取っておいていたと仰るクライアントが多いように感じます。ひとつでも多くのお品を金継ぎして喜んで頂けるよう、日々仕事に励もうと思います。 ここまでお読み下さりありがとうございました。今月の本編では書ききれませんでしたので、来月こそ北米全土から依頼が来るようになった経緯をお話出来ればと思います。また、7-8月は初めての展示会が行われます!2年間待ちに待った展示会です。しっかり準備して臨もうと思います。Anime North: 7月15-17日Japan Festival: 8月20-21日 【ご支援のお願い】 私、Shuichiは、カナダを拠点として金継ぎと日本文化を広める活動を続けています。日本でもまだまだ金継ぎの認知度は低く、歴史や素材、工程などを伝える活動も行っております。付きましては、この場を借りてご賛同頂ける皆様よりご支援を頂ければと存じます。どうぞ宜しくお願い致します。 ♥寄付して応援 国内での啓蒙活動、国内における初の金継ぎ協会設立、全世界で金継ぎと日本の伝統工芸を広める資金とさせて頂きます。  Paypal: officeshuichiro@gmail.com 三菱東京UFJ銀行: 銀座通支店(024) 普通 0334238 コサカシュウイチロウ ♥紹介して応援 メディアや講演会、イベントで金継ぎや日本文化の海外展開に関するお話をします。(オンライン可。)是非ご紹介下さい。  Email: introjapanca@gmail.com ♥SNSフォロー/投稿をシェアして応援 Instagram: https://www.instagram.com/kintsugica/ Twitter: https://twitter.com/shuichi_ca Youtube: https://www.youtube.com/channel/UCAEQt-2lFfW_dzLXcR6ijJA

北米金継ぎ通信 Vol.1

目次 ご挨拶 カナダに至った経緯 カナダを拠点に 金継ぎ師Shuichiの始まり 【今月のお直し】 ご挨拶 皆さん、初めまして。 金継ぎ師のShuichiと申します。現在、カナダで金継ぎと日本の伝統工芸や文化を広める活動を行っております。 4月にGinza Nさんで開催させて頂いた集中講義『金継ぎの歴史・心・技法・危機』はお陰様を持ちまして大好評のうちに終えることが出来ました。ご参加下さいました方々に改めてお礼申し上げます。 より多くの方に金継ぎや海外の中での日本文化の位置付けを知って頂きたいという思いで、今回、Ginza Nさんのご厚意により、毎月一回のコラム配信をさせて頂く運びとなりました。どうぞ宜しくお願い致します。 カナダに至った経緯 私の元々の目的は、伝統的工芸品の海外マーケットを作ることでした。 伝統工芸の職人、技、道具、素材が消えてゆく中、何とかそれらを将来に繋げようと懸命に働いていらっしゃる方もいらっしゃいます。しかし、どれだけ身銭を切って技術を身に付け、開業したとしても、日本の中では安定した職業として生計を立てることは困難な状況にあります。 一方、海外には「日本の感受性とものの考え方」から生まれた品々のファンが存在します。彼らは作品が生まれた歴史や工程を知りたがり、その上で安く買い叩こうとせず適正な価格で購入してくれるのです。 私は、単なるジャポニズムではない、知識と教育を伴った日本文化の一大マーケットを作り、職人さんたちに作品を売る場所を提供したいと考えていました。 大きな志もまずは一歩から。まずは英語を学ぶためカナダのトロントに渡航しました。 カナダを拠点に トロントで生活してみて、ここを最初のビジネスの拠点とするべきだと実感した点が3つあります。まず、①バックグラウンドが何であろうとチャレンジが出来る文化であるということ。そして、②移民の国として世界中から人が集まっているということ。最後に、③日本の文化の空白地帯であることです。 ① この国ではたくさんの起業家がいて、実に様々なビジネスを立ち上げています。コネクションの力が日本と同じかそれ以上に強く、友人同士でもカジュアルにビジネスの話をして人や組織を紹介したり、面白がってアイディアを出し合ったりしています。大企業や組織が一介の小さな起業家のアイディアにも耳を傾けてくれやすいというのも大きな特徴でしょう。 ② 文字通り世界中の国々から人々が集まっており、トロントとその近郊に国々の特色のある地域が作られています。(リトル・イタリーやチャイナタウンなど。残念ながら日本人は少ないのと、性質的に異国に溶け込んでしまうタイプのため、日本人街はありません…)即ち、海外に伝統工芸を売り込んでいく上で各国や各文化のデータが取れるということです。素材や装飾の好み、交渉の仕方などを学ぶ事ができます。また、トロントでコネクションを作ることは、他国へのマーケットを切り開く切欠にもなります。例えば、中国本土に販路を拡大したいブランドは、中国人の富裕層が多く住む地域に広告を打ち出します。何故なら、そこに住む中国人が本国の家族友人に口コミで伝えて本国での販売数向上に繋がるからです。 ③ それだけ多様性に溢れた都市ですが、悲しいことに日系は存在感がありません。街中のレストランは中国/韓国系の経営で、東カナダ最大の日系文化センターは郊外にぽつんとあって運営・発信力も弱く、日本の物を売るギフトショップも小さなものが1つだけです。この国において、日本という国は、何だか興味深いけれどインターネットやTVなどの一部の情報でぼんやり形作られているだけという、まだまだ幻想の国なのです。 以上3点の特徴を元に、トロントを拠点にする事を決めました。日本から遠く離れて、物資も簡単に入手は出来ません。日本で行うほど完璧にスムーズには行かないでしょうが、私が耕せば、それが私の土地になるのです。 そう決めたタイミングで、パンデミックが始まりました。 金継ぎ師Shuichiの始まり 海外で日本の伝統工芸を広める上で、2つのパターンを同時に進めることを構想していました。 ひとつは、簡単に理解できて簡単に買えるものの手広い販売。工芸に拘らずとも、10,000円未満の分かりやすく、日本らしく、珍しいものを集めて量で拡散する戦略です。 もうひとつは、日本の文化を奥深くまで理解しながら体験していくワークショップ。日本文化の盤石なインフルエンサーを育成する戦略です。海外の方たちにとって、日本独自の文化というものはどうしても一朝一夕で理解できるものではありません。しかし、これを理解しないと見えてこない価値や美しさ(このような言葉を使うのも西洋的なコンテクストに当てはまるのですが)、そして哲学が伝統工芸には存在します。これらを知ることは高価格帯商品の購入のモチベーションにもなりますし、また彼らを通して多くの人に広まって行くことが期待できるのです。 さて、パンデミックが始まって、日本からの物流が途絶えました(これは未だに回復していません)。ロックダウンも厳しく行われ、仮に手元に伝統工芸品があったとしても、対面で紹介することが出来なくなりました。カナダでの工芸品の販売は出来なくなったため、元々技術のあった金継ぎーーお直しとレッスンーーから始めることになったのです。 すると、まさかの、私がカナダ唯一の金継ぎ師/講師でした。 <続く> 【今月のお直し】 こちらの依頼品は、40ピースに壊れてしまった陶器のお人形です。ナイトガウンに身を包み、腰に手を当て、顎をつんと上げている女の子でした。頭から落ちてしまったようで、小さな頭部だけで破片が35ピースほど。ひとつひとつのパーツは小指の爪より小さく、足りていないパーツもあり、ちょっとした大仕事です。このお人形のお直しは、トロント大学で障害について講義を行われている教授よりご依頼頂きました。お祖母様からお母様へ、そしてご依頼人へと受け継がれてきたお品で、壊れてしまった時は本当に心も壊れるような思いだったそうです。けれど、ご依頼いただ時、「この勇気があり挑戦的な女の子の像が金継ぎで直された時、それは逆境に負けないresillienceの象徴になって、より力強い存在として一家に受け継がれていくでしょう」とまっすぐ仰って下さいました。resillienceとは、特にコロナ禍で注目された金継ぎの哲学のひとつで、「しなやかな回復力、強さ」を表します。差し詰め柳や竹のような柔軟さといったところでしょうか。ご期待に添えるよう、しっかりお直しさせて頂きたいと思います。さて、金継ぎでは破片の接着に漆を用います。元々は各破片の間に何も挟まっていなかった筈ですが、それぞれのピースの間に漆を付けてゆくと、異物が挟まっている分、どうしても膨らんだいびつな形になってしまいます。そこで、このお人形の場合どのようにお直しするかというとーー実は仏像の制作方法を真似る形となります。脱活乾漆造という仏像の制作方法があります。粘土で原型を作り、麻布をその上に貼り付けて何層も漆で塗り固め、外骨格を作ります。作られた漆の層の細部を削ったりヤスったりして外観を整え、中身の粘土を掻き出すと、漆と麻布で出来た、軽くて堅牢な仏像が出来上がるのです。有名なものでは興福寺の阿修羅像などがあります。今回は、その逆の方法を取ってゆきます。各破片を一旦仮で組み上げた後、裏側(内側)から麻布で貼り合わせ、その麻布を何層もの漆で塗り固めます。すると、固まった後は頭部を持っても大丈夫なくらい、しっかり繋がった状態に出来上がるのです。6月末には全身が組み上がっているかと思いますので、その際にまた過程を紹介せせて頂きます。YouTubeやInstagramで作業の様子をライブ配信しておりますので、作業工程が気になる方、また、金継ぎについてご質問がある方はぜひ覗きにいらしゃって下さい。 ここまでお読み下さりありがとうございました。 来月の本編では、パンデミック下での金継ぎ活動と、北米全土の依頼が集まるようになった経緯などをお話できればと思います。 【ご支援のお願い】 私、Shuichiは、カナダを拠点として金継ぎと日本文化を広める活動を続けています。日本でもまだまだ金継ぎの認知度は低く、歴史や素材、工程などを伝える活動も行っております。付きましては、この場を借りてご賛同頂ける皆様よりご支援を頂ければと存じます。どうぞ宜しくお願い致します。 ♥寄付して応援 国内での啓蒙活動、国内における初の金継ぎ協会設立、全世界で金継ぎと日本の伝統工芸を広める資金とさせて頂きます。  Paypal: officeshuichiro@gmail.com 三菱東京UFJ銀行: 銀座通支店(024) 普通 0334238 コサカシュウイチロウ ♥紹介して応援 メディアや講演会、イベントで金継ぎや日本文化の海外展開に関するお話をします。(オンライン可。)是非ご紹介下さい。  Email: introjapanca@gmail.com ♥SNSフォロー/投稿をシェアして応援 Instagram: https://www.instagram.com/kintsugica/ Twitter: https://twitter.com/shuichi_ca Youtube:…

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カナダを拠点として活動する金継ぎ師

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