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目次
あるもので何とかする
隔絶されたロックダウン下で、金継ぎを知らない人達に金継ぎを売り込む
【今月のお直し】
あるもので何とかする
パンデミックの最中、金継ぎのお直しの受注とレッスンから始めることに決めました。
こちらで金継ぎをするとは思ってもみなかったので、その頃辛うじて動いていた小型包装物郵便を使って、漆屋さんに材料と道具を送って頂きました。
金継ぎを行うには、漆、金粉を始めとして、少なくとも30種類以上の素材と道具を必要とします。

更に、様々な形のお品の対応したり、蒔絵での表現方法のバリエーションを増やして行ったりするので、プロフェッショナルとしての金継ぎの道具の種類は軽く100を超えてゆくことになります。
また、漆を扱うにはムロをしっかり作る必要も出てきます。ムロとは、漆が固まる湿度に内部が調整された箱ないし部屋の事を指します。漆風呂、漆室(ウルシムロ)と言うこともあり、漆を扱う職人には必須の設備です。
漆を乾かすには湿度を必要とします。日本語としていまいちすっきりしない表現なのですが、要は漆が液体の状態から指で触っても付かない程に硬化する過程で、湿度を必要とするのです。
一方、カナダは大変乾燥している国です。殊に室内は常に温度管理がされており、冬場はセントラルヒーティングのお陰で室内湿度は16%を切ることもあるほどです。漆の乾きは大変悪いですし、お肌も悲鳴を上げています。
日本であれば、段ボール箱に濡れた布を入れて蓋をして簡易的なムロとすることを勧める金継ぎ師さんもいるようなのですが、カナダで同じ事をすれば一日で内部が干上がります。そのため、設備としてムロを整える必要があるのです。
さて、ロックダウン下でどのお店も満足に開いておらず、必需品を売っているお店が時短で開いているだけでした。カナダにも百均のような立ち位置のDolleramaという店があり、ここで一通り揃えることにしました。
4ドルほどの小さな靴棚を3ドルの布団袋に入れて立たせ、日本から持ってきたパナソニックのフェイススチーマーを入れました。忙しい人を美しい人に、のあのスチーマーです。私の美肌よりも金継ぎを優先させざるを得ない状況だったのです。
スチーマーをコントロールするための、湿度センサーが付いた電源オンオフコントローラーは後の生徒さんが寄付して下さいました。これで、即席ムロ内の湿度は漆が乾くのに理想的な70〜85%に保たれることになりました。
ムロ以外にも手に入らないものは多く、様々に奔走したのですが、それはまた機会があった時にお話させて頂きましょう。
「完璧ではないかもしれないけれど、そこにあるものでなんとかする。」
パンデミック下のカナダで金継ぎを始めるに当たって、自分は開拓者なのだと自覚するようになりました。
隔絶されたロックダウン下で、金継ぎを知らない人達に金継ぎを売り込む
集客にあたっては、幾つか考慮しなければならない点がありました。
まず、Kintsugiは殆どの人に知られていません。
金色の継ぎ跡がある器をメディアで見たことがある人も多少いますが、体感で20%程度。更にKintsugiの名前を知っている人は皆無に近い状態です。
そのため、まずは分かりやすくインパクトのある言葉で、言葉を尽くして説明文を作成する必要がありました。これに関しては、パンデミック前にバレエのクラスで同じだった方が校正の経験があるということで、私の拙い英語を修正して下さいました。ありがたいことです。
次に、北米では一般的に日本ほどものを大事にしない傾向があります。
2018年の統計では、日本の一人あたりのごみ排出量は919g。対してカナダではその2倍の1972gです。
日本人と比べて、長く使うことを考えずにものを買い、また大量に不要なものも買い込み、大切に慎重に扱わず、壊れたら直さず捨てる行動が強いと言えるでしょう。サスティナビリティという言葉をしきりに使うようになりましたが、行動が伴っているかというとまた別のように思えます。金継ぎについて説明しても、しばしば「何故器を修理する必要があるの?買えばいいのに」というリアクションを取られる事もあります。
そのため、金継ぎを必要とするクライアントに至るまでは気の長い道のりになると覚悟を決めました。そして、「器の修理」よりも「復活のアート」として広告を作成することにしました。
そしてやはり、パンデミック下であるということです。
対面のイベントもなく、外を歩いている人もいません。フライヤーをお店に貼って貰ったり町中の掲示板に貼って回っても効果的とは言えません。ポスティングをすれば、アジア人が触った紙をポストに入れるなとも言われかねません。
そのため、オンラインの無料情報掲示板を使うことにしました。日本で言うジモティーやメルカリのように、オンライン上で個人で売買出来るサイトが幾つかあります。更に、こちらのFacebookにもそのような機能が実装されているのです。
ロックダウンによって自宅滞在が増えたため、ストレージやガレージの整理を始める人が多いであろう事は想像がつきました。(こちらのストレージやガレージは、容量が大きい分、様々なモノが詰め込まれているのです。)
アンティーク、アート売買のカテゴリに、ひたすら「日本の伝統的技法、金継ぎで壊れた陶器をアートに昇華します」と投稿を続けました。
同時に、ウェブページとインスタグラムも開設し、少しずつインターネット上に自分のサービスの情報を載せて行ったのです。
やがて、ぽつり、ぽつりと問い合わせが来るようになりました。
<続く>
【今月のお直し】

先月ご紹介したお人形が組み上がりました。内側は麻布を貼られ、何度も漆を塗り重ねられてしっかり補強されています。割れた際に粉になってしまったパーツ、クライアントが探しきれなかったパーツは漆で作っています。ここまで綺麗に組み上がってくれて、あんなにバラバラな状態からよく頑張ったねとお人形に声を掛けてあげたくなります。

さて、ここからの工程は、ひたすら漆の面をスムーズにしてゆく作業となります。まずはペースト状の漆で大まかな凹みを埋め、砥ぐ事を繰り返したあと、粒子がより細かくより粘度のある塗り漆で、更に細かい凹みを埋めて砥いでゆきます。全ての面が完全スムーズになったら、金粉を蒔いて仕上げの段階となります。
7月の第2週までには完成する予定なので、次回の金継ぎ通信では完成形をお見せ出来るかと思います。どうぞお楽しみに。

因みに、こちらは現在作業を進めている花瓶です。
クライアントのご一家は代々イギリスで磁器の販売をされており、お祖母様の代にカナダに移民されたそうです。
このお品はその家業で扱っていた花瓶。一家のルーツを示すもので、大切に受け継がれてきたものです。割れてしまってから5年以上、大事に破片を保存されていたそうです。
カナダは移民の国です。それぞれの国から持ってきた大切なお品が壊れた時、破片を無碍に捨てられず、何年も何十年も取っておいていたと仰るクライアントが多いように感じます。ひとつでも多くのお品を金継ぎして喜んで頂けるよう、日々仕事に励もうと思います。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
今月の本編では書ききれませんでしたので、来月こそ北米全土から依頼が来るようになった経緯をお話出来ればと思います。
また、7-8月は初めての展示会が行われます!2年間待ちに待った展示会です。しっかり準備して臨もうと思います。
Anime North: 7月15-17日
Japan Festival: 8月20-21日
【ご支援のお願い】
私、Shuichiは、カナダを拠点として金継ぎと日本文化を広める活動を続けています。日本でもまだまだ金継ぎの認知度は低く、歴史や素材、工程などを伝える活動も行っております。付きましては、この場を借りてご賛同頂ける皆様よりご支援を頂ければと存じます。どうぞ宜しくお願い致します。
♥寄付して応援
国内での啓蒙活動、国内における初の金継ぎ協会設立、全世界で金継ぎと日本の伝統工芸を広める資金とさせて頂きます。
Paypal: officeshuichiro@gmail.com
三菱東京UFJ銀行: 銀座通支店(024) 普通 0334238 コサカシュウイチロウ
♥紹介して応援
メディアや講演会、イベントで金継ぎや日本文化の海外展開に関するお話をします。(オンライン可。)是非ご紹介下さい。
Email: introjapanca@gmail.com
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