目次
ご挨拶
カナダに至った経緯
カナダを拠点に
金継ぎ師Shuichiの始まり
【今月のお直し】
ご挨拶
皆さん、初めまして。
金継ぎ師のShuichiと申します。現在、カナダで金継ぎと日本の伝統工芸や文化を広める活動を行っております。
4月にGinza Nさんで開催させて頂いた集中講義『金継ぎの歴史・心・技法・危機』はお陰様を持ちまして大好評のうちに終えることが出来ました。ご参加下さいました方々に改めてお礼申し上げます。
より多くの方に金継ぎや海外の中での日本文化の位置付けを知って頂きたいという思いで、今回、Ginza Nさんのご厚意により、毎月一回のコラム配信をさせて頂く運びとなりました。どうぞ宜しくお願い致します。
カナダに至った経緯
私の元々の目的は、伝統的工芸品の海外マーケットを作ることでした。
伝統工芸の職人、技、道具、素材が消えてゆく中、何とかそれらを将来に繋げようと懸命に働いていらっしゃる方もいらっしゃいます。しかし、どれだけ身銭を切って技術を身に付け、開業したとしても、日本の中では安定した職業として生計を立てることは困難な状況にあります。
一方、海外には「日本の感受性とものの考え方」から生まれた品々のファンが存在します。彼らは作品が生まれた歴史や工程を知りたがり、その上で安く買い叩こうとせず適正な価格で購入してくれるのです。
私は、単なるジャポニズムではない、知識と教育を伴った日本文化の一大マーケットを作り、職人さんたちに作品を売る場所を提供したいと考えていました。
大きな志もまずは一歩から。まずは英語を学ぶためカナダのトロントに渡航しました。
カナダを拠点に
トロントで生活してみて、ここを最初のビジネスの拠点とするべきだと実感した点が3つあります。まず、①バックグラウンドが何であろうとチャレンジが出来る文化であるということ。そして、②移民の国として世界中から人が集まっているということ。最後に、③日本の文化の空白地帯であることです。
① この国ではたくさんの起業家がいて、実に様々なビジネスを立ち上げています。コネクションの力が日本と同じかそれ以上に強く、友人同士でもカジュアルにビジネスの話をして人や組織を紹介したり、面白がってアイディアを出し合ったりしています。大企業や組織が一介の小さな起業家のアイディアにも耳を傾けてくれやすいというのも大きな特徴でしょう。
② 文字通り世界中の国々から人々が集まっており、トロントとその近郊に国々の特色のある地域が作られています。(リトル・イタリーやチャイナタウンなど。残念ながら日本人は少ないのと、性質的に異国に溶け込んでしまうタイプのため、日本人街はありません…)即ち、海外に伝統工芸を売り込んでいく上で各国や各文化のデータが取れるということです。素材や装飾の好み、交渉の仕方などを学ぶ事ができます。また、トロントでコネクションを作ることは、他国へのマーケットを切り開く切欠にもなります。例えば、中国本土に販路を拡大したいブランドは、中国人の富裕層が多く住む地域に広告を打ち出します。何故なら、そこに住む中国人が本国の家族友人に口コミで伝えて本国での販売数向上に繋がるからです。
③ それだけ多様性に溢れた都市ですが、悲しいことに日系は存在感がありません。街中のレストランは中国/韓国系の経営で、東カナダ最大の日系文化センターは郊外にぽつんとあって運営・発信力も弱く、日本の物を売るギフトショップも小さなものが1つだけです。この国において、日本という国は、何だか興味深いけれどインターネットやTVなどの一部の情報でぼんやり形作られているだけという、まだまだ幻想の国なのです。
以上3点の特徴を元に、トロントを拠点にする事を決めました。日本から遠く離れて、物資も簡単に入手は出来ません。日本で行うほど完璧にスムーズには行かないでしょうが、私が耕せば、それが私の土地になるのです。
そう決めたタイミングで、パンデミックが始まりました。
金継ぎ師Shuichiの始まり
海外で日本の伝統工芸を広める上で、2つのパターンを同時に進めることを構想していました。
ひとつは、簡単に理解できて簡単に買えるものの手広い販売。工芸に拘らずとも、10,000円未満の分かりやすく、日本らしく、珍しいものを集めて量で拡散する戦略です。
もうひとつは、日本の文化を奥深くまで理解しながら体験していくワークショップ。日本文化の盤石なインフルエンサーを育成する戦略です。海外の方たちにとって、日本独自の文化というものはどうしても一朝一夕で理解できるものではありません。しかし、これを理解しないと見えてこない価値や美しさ(このような言葉を使うのも西洋的なコンテクストに当てはまるのですが)、そして哲学が伝統工芸には存在します。これらを知ることは高価格帯商品の購入のモチベーションにもなりますし、また彼らを通して多くの人に広まって行くことが期待できるのです。
さて、パンデミックが始まって、日本からの物流が途絶えました(これは未だに回復していません)。ロックダウンも厳しく行われ、仮に手元に伝統工芸品があったとしても、対面で紹介することが出来なくなりました。カナダでの工芸品の販売は出来なくなったため、元々技術のあった金継ぎーーお直しとレッスンーーから始めることになったのです。
すると、まさかの、私がカナダ唯一の金継ぎ師/講師でした。
<続く>
【今月のお直し】

こちらの依頼品は、40ピースに壊れてしまった陶器のお人形です。ナイトガウンに身を包み、腰に手を当て、顎をつんと上げている女の子でした。頭から落ちてしまったようで、小さな頭部だけで破片が35ピースほど。ひとつひとつのパーツは小指の爪より小さく、足りていないパーツもあり、ちょっとした大仕事です。
このお人形のお直しは、トロント大学で障害について講義を行われている教授よりご依頼頂きました。お祖母様からお母様へ、そしてご依頼人へと受け継がれてきたお品で、壊れてしまった時は本当に心も壊れるような思いだったそうです。けれど、ご依頼いただ時、「この勇気があり挑戦的な女の子の像が金継ぎで直された時、それは逆境に負けないresillienceの象徴になって、より力強い存在として一家に受け継がれていくでしょう」とまっすぐ仰って下さいました。resillienceとは、特にコロナ禍で注目された金継ぎの哲学のひとつで、「しなやかな回復力、強さ」を表します。差し詰め柳や竹のような柔軟さといったところでしょうか。ご期待に添えるよう、しっかりお直しさせて頂きたいと思います。
さて、金継ぎでは破片の接着に漆を用います。元々は各破片の間に何も挟まっていなかった筈ですが、それぞれのピースの間に漆を付けてゆくと、異物が挟まっている分、どうしても膨らんだいびつな形になってしまいます。そこで、このお人形の場合どのようにお直しするかというとーー実は仏像の制作方法を真似る形となります。
脱活乾漆造という仏像の制作方法があります。粘土で原型を作り、麻布をその上に貼り付けて何層も漆で塗り固め、外骨格を作ります。作られた漆の層の細部を削ったりヤスったりして外観を整え、中身の粘土を掻き出すと、漆と麻布で出来た、軽くて堅牢な仏像が出来上がるのです。有名なものでは興福寺の阿修羅像などがあります。
今回は、その逆の方法を取ってゆきます。各破片を一旦仮で組み上げた後、裏側(内側)から麻布で貼り合わせ、その麻布を何層もの漆で塗り固めます。すると、固まった後は頭部を持っても大丈夫なくらい、しっかり繋がった状態に出来上がるのです。
6月末には全身が組み上がっているかと思いますので、その際にまた過程を紹介せせて頂きます。YouTubeやInstagramで作業の様子をライブ配信しておりますので、作業工程が気になる方、また、金継ぎについてご質問がある方はぜひ覗きにいらしゃって下さい。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
来月の本編では、パンデミック下での金継ぎ活動と、北米全土の依頼が集まるようになった経緯などをお話できればと思います。
【ご支援のお願い】
私、Shuichiは、カナダを拠点として金継ぎと日本文化を広める活動を続けています。日本でもまだまだ金継ぎの認知度は低く、歴史や素材、工程などを伝える活動も行っております。付きましては、この場を借りてご賛同頂ける皆様よりご支援を頂ければと存じます。どうぞ宜しくお願い致します。
♥寄付して応援
国内での啓蒙活動、国内における初の金継ぎ協会設立、全世界で金継ぎと日本の伝統工芸を広める資金とさせて頂きます。
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三菱東京UFJ銀行: 銀座通支店(024) 普通 0334238 コサカシュウイチロウ
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